香りの記録 / 8分で読む
ワインの香りを言葉にするには?「フルーティー」から進む記録のコツ
ワインの香りをうまく表現できない人へ。身近な果実で感覚を確かめる方法と、香りの種類・強さ・変化を分けて書くコツを、具体的なコメント例で紹介します。

この記事でわかること
ワインの香りを聞かれて、「フルーティーです」と答えたあとに言葉が続かない。そんなときは、果物の名前を無理にひねり出すより、感じた印象を少しずつ分けてみてください。柑橘の仲間か、赤い果実の仲間か。生の果実に近いか、煮た果実を思わせるか。その程度の違いでも、あとから読み返せる記録になります。
ブラインドテイスティングで香りを残す目的は、きれいな表現を並べることだけではありません。次に別の一杯を飲んだとき、「前より青い印象がある」「同じ柑橘でも、今日は皮に近い」と比較できる言葉を増やしていくことです。
名前がわからなければ、仲間から探す
最初から「カシス」「スミレ」と細かな名前を当てようとすると、知っている単語を順番に思い浮かべる作業になりがちです。まずは果実、花、ハーブ、香辛料など、自分に馴染みのある大きな仲間を探します。どれにも近くないと感じたら、近くないままで構いません。
果実らしさを感じた場合も、いきなりひとつに絞らなくてよいのです。レモンとグレープフルーツの間で迷ったなら「柑橘」と書きます。後でもう一度確かめて、皮のほろ苦そうな香りを連想したら、その言葉を足す。細かな名称は、観察を進める途中で見つかれば十分です。
このとき「甘そうな香り」と「ワイン自体の甘味」は分けておきます。熟した果実やバニラを連想しても、それだけで口の中の甘さは決まりません。香りの欄に書いた言葉を、味わいの評価へそのまま写さないようにします。
身近な実物を、別々に確かめてみる
言葉と感覚をつなぐ練習には、台所にあるものが使えます。たとえばレモンを切ったとき、果肉と皮を別々に嗅いでみる。ハーブの葉を一枚だけ指で軽く触り、その前後の違いを確かめる。ワインを開けない日にもできる練習です。
一度にたくさん並べず、最初は2〜3種類に絞ります。レモンの皮、ベリー、ハーブを別の小皿に置き、それぞれの印象を一言で書いてみましょう。名前を知っていても、いざ説明すると難しいものです。「爽やか」だけで終わったら、どんな爽やかさなのか、自分にわかる連想をひとつ足します。
香りを覚えるために身近なものを嗅ぐ練習は、WSETのテイスティング技能の解説でも勧められています。果実やハーブは香りの記憶を作るための材料です。ワインに入れるものでも、ワインの原材料を示すものでもありません。

香りの種類・強さ・変化は、別の情報
「柑橘」と記録した2杯でも、感じ方が同じとは限りません。片方はグラスに鼻を近づけてやっとわかり、もう片方はすぐに印象に残ったかもしれません。香りの名前に、強さについての短いメモを添えると、この違いが残せます。
ただし、「ワイン全体の香りが強い」と「レモンの香りを強く感じた」は区別します。前者は全体の印象、後者は個別の香りについての記録です。数字をつける場合も、どちらを評価しているのかを決めておくと、後から読み違えずに済みます。
5段階で記録するなら、自分の中で「弱い・中くらい・強い」の目安を持ち、毎回同じ考え方で使います。数字は香り成分の測定値ではありません。その日の自分がどう感じたかを表す目盛りです。他の人の「4」と自分の「4」が違っていても、すぐにどちらかが間違いとは言えません。
感じなかったものを「ない」と言い切らない
香りを見つけられなかったときは、「今回は感じ取れなかった」と書く方が、自分の観察に忠実です。そもそも意識して探さなかった香りなら、未確認として残します。「弱かった」「探したがわからなかった」「まだ見ていない」は、それぞれ違います。
アプリで香りを選ばなかった記録も、必ずしもその香りが存在しなかったことを意味しません。比較画面の出現回数を見るときには、数字だけでなくコメントも読み返すと、選択しなかった理由を思い出せます。
回す前と後で、短く書き足す
香りを確かめるときは、最初の印象を残してからグラスを軽く回します。回した後に印象が変わったら、元の文章を消さずに追記します。「最初は果実。回すと花に近い香りも感じた」のように、順序がわかれば十分です。
何度も続けて嗅いでわからなくなったら、一度グラスから離れます。少し間を置いて戻り、もう一度確かめてみてください。変化を必ず見つけようとしなくても構いません。「大きな変化は感じなかった」も記録になります。
時間を置くと、温度や空気との触れ方など、最初とは条件が変わります。「10分後に香りが強くなった」と感じても、その原因をひとつに決める必要はありません。ここでは「いつ、どう感じたか」を残し、原因の推測とは分けておきます。
コメントを具体的にする、3つの書き直し例
次の例は、実在のワインを評価したものではありません。短い感想に何を足すと読み返しやすくなるかを示した、架空の練習例です。自分が感じていない表現まで借りる必要はありません。
「フルーティー」から。 「柑橘の仲間に近い。レモンの果汁より皮を連想するが、名前には自信がない」。仲間、具体的な連想、迷いを残しています。レモンという名前が出なくても、「柑橘」まで書ければ、赤い果実を感じた別のワインとの違いが見えます。
「香りが強い」から。 「果実の印象が最初に来る。ハーブは鼻を近づけると少し感じる」。全体を一律に強いとする代わりに、どの香りが先に印象に残ったのかを示しています。ここに強度の評価を添えるときも、果実とハーブを別々に扱います。
「複雑な香り」から。 「最初は果実が中心。回した後に花を連想した。少し置いても果実の印象は残る」。複雑という評価の背景にある観察を書いています。香りを多く挙げることを目標にせず、実際に追えた変化だけを残すのがポイントです。

次は「同じ言葉を書いた2杯」を並べてみる
記録が増えたら、「柑橘」と書いたワインを2つ選んでみましょう。同じ言葉でも、片方は皮、もう片方は果汁に近かったかもしれません。強さや時間による変化のメモがあると、名前だけでは埋もれていた違いを探せます。
似た表現ばかりになっているなら、次の一杯ではひとつだけ言葉を深めます。果実の仲間を分ける、強さを添える、回した後の変化を見る。その日の重点を決めると、難しい単語を増やすよりも、自分に使える記録が残ります。
2杯を比較する練習法では、香りに加えて色調や味わいも並べて観察します。初めての練習なら、1杯から始める手順も参考にしてください。香りの名前が出ない日でも、わからなかったことを残せば、次に確かめる場所は見つかります。